TOP子育てコラム「親性脳って、知っていますか?」(前編)

子育て記事

2021.07.07

“親性脳”って知ってますか?(前編)
~パパがする子育てってこんなに大切~

 みなさんは、「親性脳(おやせいのう)」という言葉をご存知でしょうか。
元々、人間には子育てをする本能があり、親になれば自然に母性や父性が芽生えるものと考えられてきました。しかし、近年の研究で、人間の脳には、子育ての情報に対して顕著に活性化する中枢神経ネットワークが存在することが明らかになってきています。この育児について特徴的に活動する脳のはたらきを、「親性脳」と呼びます。
この「親性脳」を提唱し、その重要性について指摘するのが、京都大学大学院教授の明和政子先生です。今回、親性脳と子育ての関係性、特に父親と赤ちゃんとの関係性や、それが私たちの社会にもたらす価値について、お話をうかがいました。

「親性脳」とは、そもそも何なのか?

― 「親性脳」とは、どのようなものでしょうか。

 「親性脳」とは、わかりやすく言えば、育児場面でよく使われる脳内のネットワークです。
「親性脳」は、親になった時点で自然につくられるものではなく、育児経験を通じてしだいに形成されていきます。この数年で、育児が科学のテーマとなったことからわかってきたことです。親性脳は、子育てに関わることで誰もが獲得し得るものであり、そこには生物学的な性差(男女差)はありません。
 こうした科学的事実をふまえ、性別による役割分担の親性と表現することが求められています。「親性」がいつ意識を助長しやすい「母性」や「父性」という言葉に代わり、「親性」がいつからどのように発達していくのか、そこにはどの程度の個人差があるのかについて、今、世界的に研究が進められています。

― 「親性」の発達に、男女差は存在しないのですね。しかし、現代でも「育児は女性がするもの」という考え方は、未だに根強いものかと。

 その背景には、二つの大きな「誤解」がありました。
ひとつめは、ヒトという生物(ホモ・サピエンス)は、母親だけが子育てを担う形で進化してきた生物である、という誤解です。ヒトは進化の過程で、母親だけでなく、集団でともに子どもを育てる「共同養育」によって命を繋いできたのです。
 ヒトは出産後、授乳を続けていても排卵が短期間で起こります.わずか数年で、再び出産できる体の状態が整うのです。その一方で、ヒトが自立するまでには大変長い時間を要します。つまり、母親は出産の間隔を縮めて多産し、出産後は、集団で育児を行うことで子孫を増やしてきたのです。この「共同養育」こそが、人類にとって、自然な子育ての形といえます。

子育ては女性だけのものではない

― 「ワンオペ育児」や「孤育て」のように、母親にだけ育児の負荷がかかることは、進化の観点から見ても、人類にとって非常に不自然なのですね。

 現代の育児スタイルは、戦後に起こった社会システムの急速な変化が大きく影響しているといえます。戦前までの日本は、父母や多くの兄弟姉妹に加え、祖父母や叔父叔母などが同居する大家族(多世代同居)が一般的でした。地域コミュニティとのつながりも強く、子どもが産まれると、家族だけでなく隣近所の大人たちが必要に応じて育児を助けるのはごく自然なことでした。授乳中の女性同士が、互いに「もらい乳」をすることも珍しくありませんでした。
 しかし、戦後、核家族化が進んだことで、共同養育の場が失われていきました。現代の母親は、出産だけでなく、子育てをも一手に担わざるを得ない状況に置かれています。今こそ、新しい共同養育の仕組みを改めて社会全体で作ることが必要です。

― こうした状況は「女性の方が男性より育児に適している」という考え方にさらに拍車をかけていると感じます。

 ふたつめの誤解は、いまだに多くの人が「(生物学上の)女性には母性本能が生まれつき備わっている」と、根拠なく信じていることです。
 はじめにお伝えしたように、「親性脳」にははっきりとした性差は存在しません。この事実は、脳の活動をfMRI(※)で調べる、または育児に関連する内分泌ホルモンであるオキシトシンの分泌を調べた研究からも支持されています。いわゆる「母性神話」は、科学的には証明されていないのです。
 ヒトは誰しも、男女という性別に関係なく、共同養育によって親としての脳と心も育まれていくのです。根拠なき先入観で母性の存在を疑わないまま信じてきた時代が長く続きました。親をとりまく仲間がともに育児を担いながら、親性も育んでいくことの理解を社会全体で深めていく必要があります。

※fMRI:強い磁石と電波を用いて体内の状態を画像にする検査のこと
※参考文献:Françoise Diaz-Rojas, F., Matsunaga, M., Tanaka, Y., Kikusui, T., Mogi, K., Nagasawa, M., Asano, K., Abe, N., & Myowa, M. (2021) Development of the paternal brain in expectant fathers during early pregnancy, NeuroImage, 225, 117527, https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2020.117527.

親性脳発達のカギは、「経験」の積み重ね

― 親性脳の発達が男女差でなければ、そのばらつきには何が影響を与えているのでしょうか。

 親性脳の発達には、生物学的な性差はなく、むしろ個人差のほうが圧倒的に大きいことがわかっています。
 親性脳を育てるためには、子育て経験の積み重ねが大切です。乳児の親を対象にした海外の研究では、性差にかかわらず、育児経験が多い親ほど、親性脳を構成するネットワークが強く活性化することが示されています。男性も育児を繰り返し経験することで、子育てに適した脳と心が育まれるのです。
 私たちが最近行った研究では、過去2年以内に親戚や友人の子どもと触れ合った男性は、パートナーの出産前から親性脳の発達がより進んでいることもわかってきました。逆に、勤務時間が長い男性は、勤務時間が短い男性に比べて親性脳の発達が芳しくない傾向も確認されています。

― では、親性能の発達にはどんな環境が必要なのでしょうか?

 親性脳の発達には、子どもと触れ合う経験だけでなく、それぞれのライフワークスタイルなどさまざまな要因が関与しています。男性の育児参加を促し、親性脳を現代社会で育てるためには、それぞれの個人差を考慮した「親性教育プログラム」の開発と実践が重要となります。「育児に参加しましょう」「母親をサポートしましょう」といったメッセージを一律的に男性に送るだけでは効果は見込めません。

(後編につづく)

後編では、具体的にどんな育児行動が親性脳を育むか。引き続き、明和先生にお話をうかがいます!

>>“親性脳”って知ってますか?(後編)

※取材時はマスク着用
取材協力:京大オリジナル株式会社

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